元請会社が支払いを拒否した報酬額を回収した事案
相談前
- 建築工事の元請会社と下請会社との間では契約書がなく、見積書ベースで工事を行うことが長年続いていました。
- 元請会社からこれまでの見積額が過大であったとし、過払であることから、過払金と相殺するため報酬の支払はないと通告を受けました。
相談後
- 訴訟提起のうえ、元請会社との間での契約(合意)にしたがって施工をしたことを主張・立証し、元請会社からの過払金の請求も排除し、報酬額の支払いを受けることができました。
弁護士のコメント
(1)過去の過払金が生じうる2つのパターン
建設工事請負契約は、所定の事項を記載した請負契約書を作成することが義務付けられています(建設業法19条)。
しかし、約款なしの見積書ベースで請負契約がされているケースも多く、見積書に異議なく着工している場合には、特段の事情がない限り、見積書記載の内容で請負契約が成立し、見積書ベースで請求できると考えられます。
報酬金を請求するためには、請負契約の成立と仕事の完成を主張立証する必要があります。
請負契約の内容である報酬額の定め方は、①工事項目×②単価により定められることが多く、元請会社の主張(過払いが生じた理由)は、①見積書記載の工事項目を行っていなかった、②見積単価が高額であった、などが考えられます。
(2)①見積書記載の工事項目を行っていなかったという主張の場合
請負契約の内容(見積書)である工事項目を行っていないとすると、一部仕事が完成していないともいえ、当該部分の報酬を返還する必要が生じる余地があります。ただし、当事者間で当該工事は見積書と実工事の差異について精算義務がないとされていたと判断される場合には、報酬返還を要しません。
(3)②見積単価が高額であるという主張は認められるか
見積書ベースで着工している場合には、原則として見積書記載の内容で請負契約が成立していたと考えられます。したがって、適正な報酬額とは、特段の事情がない限り、当事者の合意(見積書記載額)により決まった金額であり、元請会社の主張は認められないと考えられます。
本件においても、主として、単価が高いという点に力点があったため、当時の契約内容について主張立証することで、過払金の不存在を主張することができました。
(4)報酬請求の注意点
本件では、元請会社側から過払金と相殺して報酬を支払わないという通告がありましたが、当方から報酬請求をした際に、元請会社から不当利得の反訴をされるおそれがあります。
とくに前記①の工事項目を行っていない場合には反訴が認められてしまうおそれがあるため、この点も検討しておく必要があります。
(5)解説記事について
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