電気料金の不払いがあった賃借人に対する建物明渡請求の事案
相談前
- 不動産オーナー所有の不動産(一棟商業ビル)の管理を行っていました。
- キュービクルの維持管理のため、電気料金に電力会社からの請求額に一定額を加算した電気料金の請求を行っていました。
- テナント側が電気料金を過剰に請求されているとして支払いを拒否しました。
相談後
- 電気料金の支払を求める内容証明郵便送付後、訴訟提起をしました。
- 賃借人が電気料金の不当利得を主張したのに対して、裁判例等を示して反論し、訴訟を有利に進めることができました。
弁護士からのコメント
(1)賃貸借契約における電気料金の精算方法
賃貸借契約においては、①賃借人と電力会社が直接契約を締結する方式、②賃貸人と電力会社が契約を締結し、賃借人が共用部分と各テナントの電気料金を一括して電力会社に支払い、各テナントの電力量に応じた電気料金を賃貸人がテナントに請求する方式があります。
②の方法は、主として商業ビルなどに多く、電力会社から高圧の電力を引き込み、キュービクルにより降圧して、各テナントに供給することになります。
したがって、子メーターの検針に要するコストやキュービクルなどの受電設備の設置・維持管理に要するコスト等も考慮し、電力会社からの電気料金に加算し、賃貸借契約書に基づく算定式または賃貸人の裁量によって算出する金額を加算することがあります。
テナント側からは、電力会社からの請求額と、自社への電気料金の金額が異なることから、オーナーが差額を不当に収受しているかのように主張されることがあります。
もっとも、過去の裁判例上、賃貸借契約書に具体的な電気料金の計算方法が定められていなくとも、キュービクルにより降圧して各テナントに電力を供給するための合理的に必要と考えられる程度の諸経費を考慮した金額をオーナー側の裁量により設定することができる旨判時した裁判例は多くあります。
(2)電気料金の不当利得に関する反訴への注意
前記(1)のとおり、キュービクルにより降圧して各テナントに電力を供給し、諸経費を上乗せして請求する方式の場合、当該諸経費の上乗せ分が、合理的な裁量の範囲内であるかどうかが重要となります。
テナント側の争い方としても、電力会社に支払う電気量相当以上の金額の支払いを拒絶する場合と、過去の払い過ぎた電気量を不当利得であるとして返還請求する場合があります。
電気料金の未払額を訴訟にて請求することを検討するにおいては、合理的な裁量の範囲内か否かにより、反訴提起され、過去の差額分を請求されるおそれがある点は検討をしておく必要があります。
(3)賃貸借契約書における電気料金の定め方
オーナー側が一括して支払い、各テナントに請求する場合の賃貸借契約書の条項は、「賃借人が負担する諸費用のうち、本物件の使用に伴う電気料・上下水道料・看板使用料は、賃貸人または賃貸人の指定する者の計算に基づき、賃貸人に支払うものとする。」との規定が一般的であると思われます。
裁判例(東京地判平成24年3月16日)においても、上記の契約書文言のみがあり、他に取り決めがない場合、特段不合理な算定方法でない限り、賃貸人の裁量に委ねられた趣旨であると判断されました。
もっとも、前記のとおり、裁量の範囲内か否かについて疑義が生じうるため、賃貸借契約書中に単価の算定方法を記入することも検討されます。