コンサル契約が中途解約され、委託者から、当初より業務を行っていなかったとして報酬金の全額返還を求められた事案

相談前

  • IT関連・コンサル事業を営む会社が、ブランディング等の業務委託契約を受注し、前受金として報酬を受領していました。
  • 途中で業務遂行が困難となり、結果として中途解約となりました。
  • 委託者は、受託者たる当社が最初から業務をするつもりがなく騙されたと主張し、報酬金(約9000万円)の返還を求めました。

相談後

  • 訴訟中で、受託者として行った業務内容を詳細に主張・立証しました。
  • その結果、全額の返金ではなく、履行の度合いに応じた相当額の返還に減額させることができました。

弁護士のコメント

(1)IT業・コンサル業に多くみられる報酬トラブルについて

IT業・コンサル業の業務委託契約では、成果物が見えにくかったり、成果物に至るクライアントから見えにくい工数が多数あること、最終的な委託業務の結果に対するイメージがクライアントと共有しにくいことなどから、業務を履行したにもかかわらず、業務を行っていないとして、報酬の不払であったり、報酬の返還を求められるケースが比較的多くみられます。
本件においては、当初より業務を行う意思も能力もなかったとして、支払済みの報酬全額について返還を求められており、このようなケースも見られます。

(2)業務委託型の契約における中途解約時の報酬算定方法について

ア 定期払いの合意をしている場合の報酬請求に必要な要件事実について

IT業・コンサル業においては、定期払い(報酬を月●円などと定めること)にしているケースが多いと考えられます。
このような場合は、業務委託契約書にて定期払いの支払条件としていること、当該期間の経過、当該期間中に行うべき委任事務の履行がされたことを主張・立証する必要があります。

イ 中途終了の場合について

業務委託契約の報酬体系には、「成果完成型」(委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う契約内容)、「履行割合型」(成果完成型に当たらないもの)、がありますが、令和2年(2020年)4月1日から施行された改正民法において条文上も整理がされました。
「成果完成型」は請負に近い契約なので、可分な部分の給付について、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる規律となりました(改正民法648条の2)。
「履行割合型」は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できることが明記されました(改正民法648条3項2号)。
IT業・コンサル業の報酬体系は、「履行割合型」が多いと思われますので、既にした履行の割合に応じて報酬が請求できるものとなります。

ウ 本件の報酬算定方法について

前記のとおり、「履行割合型」の場合、「既にした履行の割合に応じて」報酬請求ができますが、その範囲がどこまでかは、条文から必ずしも明らかではありません。
IT業・コンサル業においては、業務委託契約書においては、業務内容としてある程度抽象的な業務を列挙し、クライアントとのやり取りを通じて業務を具体化していくことが想定されていることが多く、報酬し支払方法は定期払いであることが多いです。
本件においても、上記のような構造であったため、中途解約の月までに行った具体的な業務を主張・立証し、当該期間中に行っている委任事務を詳しく主張・立証することで、中途解約時までの報酬が認められ、全額の返還を避けることができました。

(3)企業間紛争(損害賠償請求対応)について

企業間においては、相手方企業から損害賠償請求を受けることもありますが、必ずしも全額を支払わなければならないわけではありません。
よく検討すると過剰な要求が含まれている場合があるため、内容をよく精査して対応していくことが必要になります。

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